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よろこびをはこぶ容(かたち)第9話「開き直らず続けてみると」

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会社で、掃除機かけ、デスク拭き、キッチンやトイレ掃除が当番制だった。

でも、私は最上階すべてを先輩から仰せつかった。

毎日一人で、倉庫と女子更衣室、トイレ、キッチンを黙々と掃除する。

広いから、就業10分前どころか、30分前でも時間は足りない。

なので、常に1時間くらい早く出勤していた。

 

就業前でエアコンが入っていない夏の倉庫は、

山積みの生地がいっぱいで、まるで干したての布団に包まれているような暑さだった。

なんて考えながら掃除を続けていると、突然、社長が現れた。

出張に持参する、海外生産用の生地見本を忘れたため、

慌てて倉庫にやって来たらしいが、社長は私を見て驚いた様子だった。

「こんなところ掃除してましたんか。どうりで毎日みかけんはずや。」

どうやら、私は毎日ギリギリに出勤をしているサボリ魔と思われていたようだった。

 

誤解が解けたのと、誤解されていたのを同時に知ったが、

気持ちは意外に驚きもなく穏やかだった。

倉庫の掃除にはメリットも感じ始めていたからだ。

企画の誰よりも、素材の種類と在庫を把握できて仕事に役立っていたのだ。

 

ある日、敬老感謝の企画中で、素材を考えながら掃除していたときのこと。

「あ!」と目に止まったのは、手付かずの中途半端な量のベルギー製ゴブラン織。

格子になった小花柄。可愛い白髪のおばあちゃまが頭に浮かんだ。

老夫婦が手を繋ぎながら坂道をスキップしていた食器用洗剤のCMも思い出した。

 

生地量が少ないから、要尺少なめのミニチュアボストンにして、

可愛いおばあちゃまを想像しながら、「ママのママ」で、「グランマ」なんてどうかな…。

「グランマ」は完売した後も、生地を変えて生産が繰り返された。

 

数ヵ月後、社長からヨーロッパ視察旅行のメンバーにも加えてもらったっけ…。